句集『異地』 杉浦圭祐 (現代俳句協会)
かなかなや木の国の木の家にいて
夜の雪聞こえているし解つている
水鳥の目を流れゆく水ばかり
箸の影ちりめんじやこに届きけり
画廊での対話やたらに黄蝶白蝶
都の木むかしのままに鹿が舐め
砂を出て塔にもなれぬ狆穴子
句集中ほどの「神火」という章には、御燈祭の句のみが収められている。作者は毎年故郷の和歌山県新宮市に戻り、白装束の上り子としてこの御燈祭に参加しているとのこと。
上り子は身元不明の白頭巾
上り子の割れし眼鏡を川へ放る
火に眠り神火に目覚む岩のうえ
激しい火祭りの様子が伺える。このように故郷との密接な関係を保っているのに、作者は郷里熊野を「異地」と感じているそうだ(あとがきより)。
この「神火」の章の作品からは、そのような一歩引いた立ち位置からではなく、高揚した上り子の目から見た御燈祭が、正面から描写されている。
作者の郷里に対して抱いている距離感のようなものが表出されているとすれば、巻末近くに収められている次のような句だろうか。
誰の子と思いて我を見る鯨
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