一本に見ゆる煙突初景色 井原美鳥
句集『分度器』(文學の森)より
一本に見える、ということは実際は一本ではない。ある角度から見たら、何本かある煙突が直列して重なり、一本の煙突に見えた。その光景がきっと初景色に相応しかったのだと思う。
大昔、大型の建築物を作る仕事の人と、北の方へ旅行したことがある。目的地へ向かう途中、観光地でもなんでもない、ある町に立ち寄った。その町の外れにある清掃工場の煙突を、その人は指さした。自分が建設に携わったのだと、たいそう誇らしげに。
とても、寒くて、私はやや反応に困り、曖昧な笑みを浮かべていたような気がする。いや、「すごいね」くらいは言ったかもしれない。記憶もすっかり薄れている。けれど、その煙突がくっきりと白かったことは覚えている。
0 件のコメント:
コメントを投稿