2019年12月11日水曜日

『汗の果実』松本てふこ

『汗の果実』松本てふこ(邑書林) より

冬菊に尿意やさしく来たりけり

句集の中に下半身や生理現象を扱った句がちらほらあって、それは一つの特徴なのだろう。しかしリアルを追求しすぎている、とか露悪的、という感じはなくて、少しふわりとした詠み方がされているように思う。掲句では冬菊という優しい響きの季語を用い、さらに「やさしく」という形容が添えられていて、身体の穏やかで正常な働きを愛おしんでいるようだ。

帯の、辻桃子選の十句にある「だんじりのてつぺんにゐて勃つてゐる」も実際そういう状態になっている、というよりは、メンタルの高揚感をあらわすものか、もしくは女性の目から見た、若干のファンタジーを含んだものではないだろうか。だって大工方がそんなんやったら危ないもん。知らんけど。


おつぱいを三百並べ卒業式

会社やめたしやめたしやめたし落花飛花

ごきぶりの死や腸をかがやかせ

冬暁の小高き山として夫

先生の白樺色の夏帽子

叱られてゐるやうなかほ菊を見て

初旅の部屋の大きなテレビかな

バレンタインデーやとろりと神田川

人生は林檎並べるほどに暇

よそ者として一心に踊りたる

人ごみに流されながら初笑










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