『汗の果実』松本てふこ(邑書林) より
冬菊に尿意やさしく来たりけり
句集の中に下半身や生理現象を扱った句がちらほらあって、それは一つの特徴なのだろう。しかしリアルを追求しすぎている、とか露悪的、という感じはなくて、少しふわりとした詠み方がされているように思う。掲句では冬菊という優しい響きの季語を用い、さらに「やさしく」という形容が添えられていて、身体の穏やかで正常な働きを愛おしんでいるようだ。
帯の、辻桃子選の十句にある「だんじりのてつぺんにゐて勃つてゐる」も実際そういう状態になっている、というよりは、メンタルの高揚感をあらわすものか、もしくは女性の目から見た、若干のファンタジーを含んだものではないだろうか。だって大工方がそんなんやったら危ないもん。知らんけど。
おつぱいを三百並べ卒業式
会社やめたしやめたしやめたし落花飛花
ごきぶりの死や腸をかがやかせ
冬暁の小高き山として夫
先生の白樺色の夏帽子
叱られてゐるやうなかほ菊を見て
初旅の部屋の大きなテレビかな
バレンタインデーやとろりと神田川
人生は林檎並べるほどに暇
よそ者として一心に踊りたる
人ごみに流されながら初笑
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