宮本佳世乃さん第二句集。
蓮の実が短き棒を超えゆけり
お降りの糸散らばつてゐる東京
眼はひばり教はり雲雀好きになる
くちなはに横のありたり流れたる
古代より来し青鷺の部屋の前
やわらかな言葉が使われており、世界の色々な手触りや印象が書かれている。
しかし一句を通じて日常の事物のリアルな描写に辿り着いたり、生々しい情感を伝達したりすることは避けられているようだ。そのために少しずらした言葉が選択されたり、描きすぎてしまわないよう注意が払われているように思う。
うつすらと背中の透けてゐる泉
鎖骨から離れてゆける榠樝の実
ふくろふのまんなかに木の虚のある
異質なものが地続きで描かれ、その境界は曖昧だ。
集中に被災地のことと思われる作品群があるが、それ以外でも比較的はっきりと提示されているのは死や喪失のイメージだろうか。そこはかとない喪失感、ではなくはっきりとした「喪失」だ。
もう鍵盤がない息のない土竜
蜜柑山はやく帰つてはやく死ぬ
散る花と雪のあはひのゐなくなる
さやうならそしてさよなら葛の花
死の蟬を覆つてゐたる蟬時雨
実は、私はこの句集が少し怖い。次のような句も、句会で出会ったときにはそんな風に思わず、むしろ楽しげな句だと思っていたけれど、今見ると何となく怖いのである。
朽野の首がふかふかしてをりぬ
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