2020年2月20日木曜日

句集『盲人シネマ』丹沢亜郎

句集『盲人シネマ』 丹沢亜郎(光書房、1997)

次郎の死太郎初花見にゆけり

先月、丹沢亜郎さんの訃報を聞いてから、何か書こうと思いつつ、考えがまとまらないでいる。

亜郎さんと言えば、高円寺のライヴハウス「ペンギンハウス」のマスター。なんだけれど私は亜郎さんのその顔を深くは知らない。プライベートの事情もそんなには知らない。いろいろ事情があったことは察せられるけれど。

私が炎環に入会した頃の編集長が亜郎さんだった。炎環誌にも本部句会にもそのカラーは出ていたと思う。俳句を始めたばかりの、右も左もわからない私にとっては、師系云々といったことよりも、会の中に俳句以外の面で才能豊か、個性豊かな人が多いこととか、同世代が句会で自由に発言していることとか、表紙の中嶋憲武さんの鳥の絵いいね、とか、そういうことの方に関心があった。

コップ百磨き全身天の川
金魚売水を流してオシマヒデス
犬の仔に囲まれ石鹸玉吹けり

当時の炎環の編集後記に亜郎さんは「私にとって俳句はつねづね、実人生への突破口である」と書いている。俳句へ向かう態度は真摯、でも、真面目腐った顔を人に見せるタイプではなかった。

裸子と裸でゐたき誕生日
中也の帽子亜郎の帽子にも落花
立春やつひに獏のゑ画けずをり
夏蝶の消えてピアノの十指かな

炎環への投句が無くなっても、ときどき聞こえてくる消息は、いかにも亜郎さんだなぁというもの。十数年お会いせぬまま。ペンギンハウスに会いに行くことはできたのに、と思っても遅い。

ハードボイルドいま終章へ来て柚子湯
自画像のダリに視られてしぐれけり
遠泳の背ナかがやけりそれつきり


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