『エレメンツ』鴇田智哉 (素粒社)
作者の前句集『凧と円柱』が語られるとき、たびたび抽象という言葉が使われていた。今回は『エレメンツ』というタイトルでもあるし、さらに抽象化が進んでいるのでは、と勝手に予想しながら読み始めた。
しかし読んでみると一句一句が以前よりも抽象的かというと、そうでもない。一部の実験的な句群を除いて、案外、一読して通常の文脈で意味が通じそうな句が多い。
十二個の目が滝壺を見てもどる
あたたかな木とさかさまに映る木と
自転車の痺れのかよふ葉鶏頭
つはぶきは昨日の層にありにけり
ぶらんこをからだの骨としてつかふ
消ゴムに小暗い栗鼠ををからめとる
いうれいは給水塔をみて育つ
鳰よりも黒つぽくゐるわたしたち
冬をゆくかほの高さを保ちつつ
『凧と円柱』は、句は抽象的でも(むしろだから?)あまり考えずにさらさらと読んでいくうち、自然に引き込まれて色々な感覚体験をさせてもらえる、アトラクション的な楽しさが私にはあった。『エレメンツ』の句は、それに比べると少し、澄まして並んでいる感じがする。(はからずも帯の本田さん(誰?)も「澄ましていきいき並ぶ」と書いている。)
ひばり指させり互ひに入り組めり
こういう、ちょっとおかしな接続の魅力は健在。
本の構成については、見開きに俳句が飛び交っているページがあったり、かなり読解が難しい方言の句群があったりと色々な試みがされていて、モダンアートっぽい。
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