句集『すみれそよぐ』 神野紗希 (朔出版)
細胞の全部が私さくら咲く
肯定感がすごい。
身辺のこと・思いを、口語表現を多用し、軽やかに掬い取っていて屈託がない。途中まで、こんなに屈託がなくてよいのかと思うほど。
あげるわと言ってビスコと蟬の殻
水に映れば世界はきれい蛙飛ぶ
縞馬に羽根を描き足す休暇明け
作品は作者の実生活とリンクしていると思われ、途中で結婚・出産という大きなできごとがある。そう思って読むせいか、中盤から、すっきり爽やかなだけではない、もやっとしたトーンや、うっすらとした陰翳を備えた句が混じるように感じる。
胎児まず心臓つくる青胡桃
雨粒に鱗をきゅっと穴惑
羊水を鯨がよぎるクリスマス
母子手帳に数字満ちゆく青嵐
綿虫や子の眼球の仄青く
もう泣かない電気毛布は裏切らない
産み終えて涼しい切株の気持ち
切株というモチーフが何回か出てくる。どれも比喩表現で使われている。今後、作者の生活と俳句が変化してゆくにつれ、切株に託されるものも変わってゆくのだろう。
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