『遠くの声』 藤本夕衣 (ふらんす堂) より
授かりし名をペテロてふ豆の花
カトリックの高校に通っていたため、級友のうち何人かはクリスチャンで、洗礼を受けていた。学校行事でミサがあると、洗礼を受けている子だけが前へ進み出て、聖体拝領を受けることになっていた。そういうときの彼女たちは、いつもとは違って真面目な面持ちで、クリスチャンでない私はなんとなく不思議な気持ちで見ていた。洗礼名を教えて、と言うと照れながら、マリアとかセシリアとか教えてくれた。
ペテロという名前を授かったのは子供だろうか。豆の花がつつましやかで穏やか。
戻りきし燕すぐ去る真昼かな
楽器みなくるまれてをり青嵐
小さくて歩くこと好き茸山
片足はみづうみに立ち秋の人
物置の隣に菊の残りをり
かたはらに読む人のをり花曇
いつからか色のなくなりからすうり
函ふつてでてくる本やほととぎす
どの絵にも前のめりして秋の人
髪の毛も眉もまつ毛も冬日向
水澄みて喪服の膝にゐる子かな
赤ん坊につままれてゐる大海鼠
とても静かな句集なので気がつかなかったが、人間が多く登場している。
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