句集『森へ』宇多喜代子(青磁社)より
透明な傘の八十八夜かな
消灯という無理強いを星月夜
親を喰う梟を見るだけの旅
羚羊がいるこれ以上近づけぬ
冬の月わが天動説のまま動く
冬空を差配しているこの心地
対岸に用あるらしき鴨の首
心臓のかたちの餅をさりげなく
三輪山の木の芽まみれに和田悟朗
一族に赤ん坊のいる三が日
生きていること思い出す夏座敷
森の匂い書庫の匂いに似て晩夏
『森へ』というタイトルではあるけれど、さほど自然回帰という印象は受けなかった。
あくまでも思念の森であったり、自然を詠んでいても、象徴的に扱ってあることが多いように思う。
寒天に置く月一個と定めたり
定まっていることを、自分が定めたように書いているのが楽しい。
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